非デジタル領域の
データエンジニアリングを
どう実現するのか
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戸松 淳
株式会社バンダイにて、トイホビー事業におけるデータ活用プロジェクトを推進。
事業部横断でのデータ活用構想の立ち上げから、現場との調整・要件整理までを担い、 データを「事業で使える形」にする役割を担っている。 -
鈴木 翔大
株式会社バンダイナムコネクサスにて、
データ基盤の設計・構築から、分析や活用につながるデータ整備までを担当し、トイホビー事業におけるデータ活用を技術面から支えている。 -
吉村 武
株式会社バンダイナムコネクサスにて、
データ活用やプロジェクト推進を担当。
本記事では聞き手として対談に参加し、
バンダイとバンダイナムコネクサスの共同体制や取り組みの背景を掘り下げている。
バンダイとBANDAI SPIRITSがデータ活用を進めるため、バンダイナムコネクサスと協力してデータ基盤の整備と活用の仕組みづくりに取り組んでいます。
今回は、その中心となってプロジェクトを推進してきたメンバーに、どのようにしてデータ収集から分析・活用までを“爆速”で進められる体制を築いてきたのか、その裏側をインタビューしました。
トイホビー事業を行う2社の合同プロジェクト
「RIPRO」
吉村
戸松さんと鈴木さんが行っているのはバンダイ及びBANDAI SPIRITSのデータ利活用ということですが、その2社はどのように事業のすみ分けをしているのですか?
戸松
バンダイは子どもから大人まで、幅広いお客様と向き合った商品やサービスを提供しており、BANDAI SPIRITSは主に、ハイターゲット市場、大人向けの商材をお客様に提供するという趣旨のもと設立されています。
吉村
なるほど、近しい事業を展開している中で、データ利活用についてもその両社で連携して進めた方が良いという判断のもと、共同で取り組んでいるということですね。
戸松
そうですね、プロジェクトとして共同で進めた方が、お客様にとってより魅力的なサービスや商品を提供できると考え、2社にまたがった形で進めています。
プロジェクト名は『RIPRO(リプロ)』と名付け、点在しているデータを一つの基盤に集約し、分析・可視化をすることで、データを用いた意思決定を推進しています。
吉村
プロジェクトを立ち上げるにあたり、どのように周囲を巻き込み、進めていったのでしょうか?
戸松
バンダイナムコグループには「データユニバース構想」という考え方があります。これは、グループ各社にあるさまざまなデータを横断的に収集・連携・分析し、グループ全体としての成長につなげていこうという構想です。
今回のデータ利活用プロジェクトを立ち上げるにあたり、このグループ全体の流れに沿うものであると考え、合流する形で進めていくことにしました。
結果的に、経営層に対しても「グループとしての方針に沿った取り組みである」という説明をすることができるようになり、理解を得やすくなったのではないかと感じています。
データのプロフェッショナルである
バンダイナムコネクサスとの連携
吉村
RIPROはバンダイナムコネクサスと一緒に進めておりますが、どのようなきっかけで出会い、連携することになったのでしょうか?
戸松
プロジェクトを立ち上げた段階では、社内にデータエンジニアの専門チームがあるわけでもなく、やりたいことはあるものの、どう進めていけばよいのか分からないという状態でした。
そうした中で、グループ会社にバンダイナムコネクサスという会社があることを知りました。そこでまずは相談という形で声をかけさせていただいたのが、最初のきっかけです。
吉村
そのときのバンダイナムコネクサスに対する第一印象はいかがでしたか。
戸松
話をしてみると、自分たちがまさに課題に感じていた部分に対して、必要な知見を組織として持っていることが分かりました。それならば一緒に取り組んでいこう、ということで、今回のプロジェクトを一緒に進めることになりました。
吉村
バンダイナムコネクサスの専門性の高いメンバーと、実際の事業や現場に近いである戸松さんとで、コミュニケーションはうまく取れたのでしょうか。
戸松
コミュニケーションは問題なく取れていたと感じています。というのも、私たちバンダイと、バンダイナムコネクサスとでは、それぞれ担うべき役割が明確に違ったからです。
私たちは、社内のコミュニケーションを通じて現場の課題を把握し、それを踏まえてビジネスには何が必要なのかという要件を整理する役割を担います。
一方で、バンダイナムコネクサスには、専門的な知識を活かして、データ基盤やデータ連携といった領域について、提案型で支えていただく役割を期待していました。
こうした形でお互いの役割をしっかり分けて進めたことで、コミュニケーションはうまく取れていたと思います。
吉村
鈴木さんはバンダイと一緒にプロジェクトを始めたときのことは覚えていますか?
鈴木
プロジェクトの初期は、他事業部のデータ連携から取り組みを始めました。週次での打ち合わせを通じて 「どのような形でデータ連携を進めるのか」「どのようなスケジュールで進行するのか」といった点を一つひとつ確認しながら進めていく中で、徐々にお互いの理解や関係性が深まっていったように思います。
その後、「こういう形でデータ連携をしたい」「こんなことができそうだ」といった具体的な相談や要望が、自然と上がってくるようになり、取り組みのスピード感が増し、プロジェクトもぐっと加速していきました。
ちなみに私は、バンダイナムコネクサスの採用面接で、ガンプラをはじめとした非デジタル領域のデータ活用にも、踏み込んで取り組んでいきたいという話を聞いており、その点に強い興味を持って入社した、という背景があります。興味を持った領域に今、取り組めていることは、やりがいにつながっています。
吉村
鈴木さんはバンダイに兼務で働いていますが、一緒にやったほうが、よりプロジェクトが前に進むと感じた具体的なきっかけはありましたか?
鈴木
戸松さんは自分たちにはないドメイン知識や視点を持ちつつ、なおかつ提案型でプロジェクトを前に進めてくれる、とても頼もしい存在だと感じていました。
兼務という形で一緒にチームに入ることで、一緒に提案に入ることができ、データをどうビジネスに活かしていくかという議論まで、スピード感を持って進められるようになりました。
吉村
鈴木さんとしてプロジェクトを早く進めるために意識していることは何ですか?
鈴木
まずは対面でのコミュニケーションでしょうか。対面で話した方が、要件整理をする時に、アイディアベースのディスカッションができるので、早く進められますね。
吉村
戸松さんは、バンダイナムコネクサスは動きが早いと感じることはありますか?
鈴木
バンダイナムコグループの一員なので、キャラクターの知識も前提として持っていることや、それに加えてドメイン知識を学んでいただいた上でいろいろと話ができるので、そういう意味でも動きが早いと思います。
二人三脚で進める使われるデータ基盤への成長
吉村
せっかくデータを集めたにもかかわらず、十分に活用されないまま終わってしまうケースは、データエンジニアが持つ課題として良くある課題であると感じています。
提案型でプロジェクトを進めていったということですが、利用されるデータを収集するためにどのようなことを心掛けて提案していますか?
鈴木
特定の使い方の提案ではなく、こういう使い方もできますよと選択肢を示す提案を心がけています。
その中の一つでも現場に刺されば、次はこれをやってみようという話につながり、使われるデータ基盤へと取り組みが広がっていくことを実現できています。
吉村
ここまでRIPROがどのように立ち上がっていったのかを聞かせていただきましたが、RIPROから生まれた事例をご紹介いただけますか?
戸松
最近の分かりやすい例で言うと、アンケートの共通可視化ツール「アンケートダッシュボード」の取り組みがあります。
従来の商品に関するアンケートデータは、各事業部の中で管理・活用されていました。その結果、似たような分析を行っているといった課題や、データが分断されたままになっているという課題がありました。
こうした状態は業務として非効率でしたし、また、お客様の声を効果的に活かすためにも、全社横断でデータ基盤に集約し、統合的に分析できる仕組みを構築しました。
各部署との連携については私が中心となり、鈴木さんにはデータをどのように見せるのか、どのように保持するのかといったアプリケーション部分を担ってもらいました。
こうした形で、お互いの役割を活かしながら連携することで、商品アンケートを全社的に活用できる仕組みを構築することができました。
吉村
「アンケートダッシュボード」を利用し成果を出した事例などがあれば、教えていただけますか。
戸松
各アンケートの結果そのものよりも、データが誰でも気軽に活用できるようになったという点に、手ごたえを感じています。
例えば、商品展開のスピードが早い事業部のアンケートデータを参照し、別の事業部が自分たちの商品企画に活かす、といった使い方が、自然と行われるようになってきました。
吉村
今まではアンケートを実施した事業部が見るだけだったものが、他部門のデータとあわせて活用するように変化してきたということですね。
戸松
また、複数のアンケート結果を統合して見ることもで、一つひとつの回答に一喜一憂するのではなく、全体としてどの方向に向かっているのかといった大枠を捉えることができるようになったことで方向性を見出すといった使い方ができるようになった点は、大きな変化だと感じています。
吉村
鈴木さんはアプリケーション部分を担っていたということですが、「アンケートダッシュボード」を構築してどのような成果が出たと感じましたか?
鈴木
「アンケートダッシュボード」の画面をそのまま報告資料に貼って使っているのを見たときには「やってきて良かったな」と思いました。
もう一つは、企画段階での調査だけではなく、その後の振り返りに使われるようになってきていて、データを使ったPDCAが回っている点が嬉しく感じている部分です。
吉村
データ基盤を作っても十分に活用されないケースは多いと話しましたが、実際に振り返りに使ってもらえているというのは、使われるデータ基盤を実現できています。アプリケーションを作るうえで工夫した点があれば教えてください。
鈴木
データを可視化する際には、このデータをどう使うのかということを、具体的に想像するようにしてきました。
単にデータを可視化するだけでは、そのまま資料に使われることはなかなかありません。そこで、デザインや文字の大きさ、表示の仕方などを工夫して、そのまま資料に使えるという状態まで、あらかじめ落とし込むことを意識しました。
吉村
そこまで考えて作ったのですね。そして狙い通り資料に使われるようになったというのは素晴らしいですね。
もう一つの課題として、どんなに素晴らしいアプリケーションを作ったとしても、存在自体が認知されないまま終わってしまうケースも多いと思うのですが、そうならないように戸松さんはどのように事業部と連携していったのでしょうか?
戸松
認知を広げるためにはどう使えるのかまで含めて、社員の皆さんにきちんと伝えていくのが重要であると感じています。
具体的には、毎週社内メールで活用事例の記事を発信したり、社内ポータルにリンクを掲載したりといった取り組みを続けています。
そして、活用事例を記事としてまとめるだけでなく、場合によっては部門やチームに直接足を運び、利用方法を説明することも行っています。
そうした直接のコミュニケーションを通じて、「これは自分の業務にも使えそうだ」とイメージを持ってもらうことを大切にしています。
トイホビーという非デジタル領域での
データエンジニアに求められるスキル
吉村
ここからは、話が変わってトイホビー領域でデータエンジニアに求められるスキルについて教えてください。
鈴木
まず、前提となるデータについてですがトイホビーなど非デジタル領域のデータは、そのまま取り込める状態まで構造化されていないケースが非常に多いという点が挙げられます。
例えば、店舗からデータを受け取る際にシステムで連携されておらず、メールで送られてくる場合もあれば、共有ドライブに置かれる場合もあり、受け渡し方法から一貫していないことが少なくありません。
データの中身も、このままではデータとして取り込むのが難しいと感じるものが多くあります。また、データの重複が含まれていることも多く、クレンジングをしっかり行わないとデータ分析や活用に耐えられないケースも頻繁にあります。こうした点が、データ取り込みにおいて特に難しいと感じる部分ですね。
吉村
そういった、難しさがあるなかで使えるデータ基盤を構築するためにはどのようなスキルが必要だと思いますか?
鈴木
まず基本となるデータエンジニアリングの知識は必要として、そのデータを検品し前処理するスキルは重要かなと思います。検品や前処理については泥臭いことも求められるので、それに抵抗感がない人は非デジタル領域のデータエンジニアに向いているのではないでしょうか。
吉村
泥臭いことというと、具体的にはどんなことですか?
鈴木
例えばExcelのフォーマットが30個ぐらい違うものだったとしても、定型化して取り込むためにはどうしたらいいかをひとつひとつ丁寧にチェックをした上で考えるとか、ですね。
戸松
結構チェックしますよね。ダッシュボード化した時に機械的に見るのではなくて、実際にファイルを開いて見た時にどうだったか、といったこともチェックします。
鈴木
データを自分たちでちゃんと見て、これって本当に分析できるデータかどうかを、一個一個見ていく。品質自動化アプローチでは担保できない品質の担保を手作業で行っています。
吉村
デジタルのデータとは違って、異常値・欠損値がすごいということですか?
鈴木
そうですね。例えばExcelのセルの中に指数表記になっているものが一個だけ混じっていて、しかもそれが特定の日だけ紛れ込んでくるような状態です。イレギュラーケースですが。
また、今のデータは正常だけど、過去のデータを取り込んでみたら過去のデータだけおかしいということもあるので、それらを目視確認で丁寧に拾っていくことが大事だと考えています。
吉村
まさに泥臭さを示すエピソードですね。確かにExcelも型が暗黙変換されて数字が削ぎ落とされてしまっており、なんだろうこれは?みたいなこともありますからね。
鈴木
拡張子がxlsxのものはいいけれど、マクロ付きのxlsはどうするんだとか、パスワード付きのExcelを取り込んでほしいといった要望もありますね。
吉村
エンジニアとしてモダンな技術だけを触っていればいいわけじゃないということですね。
鈴木
そうですね。モダンな技術だけやっていたらできないこともたくさん出てきてしまうので、それ以外のことも視野に入れてインプットしながら具体的な解決策を回せることが重要だと思っています。
吉村
データベースの技術も違うし、Excelも色々なフォーマットが出るし、開発会社によって知らない技術や認証を使ってくれというケースもあるでしょうし。
対応が必要なものは多種多様な気がしますが、鈴木さんはどうやって技術を習得しているんですか?
鈴木
技術に関しては勉強だけで覚えるのは難しいと思っていて、サービスを作ったり、人に教えたりしてアウトプットをすることで覚えていくと思っています。
また、個人開発を通して覚えていくことも多いですね。
吉村
データのチェックをするためにはドメイン知識が必要となってくると思いますが、どうやってドメイン知識のギャップを埋めていったのですか?
鈴木
戸松さんは説明がとても上手なので、日々のやり取りから学んでいったのはありますね。
他には、例えば商品の単位だったら、カートンとか、ピースとか、アソートとか、業界特有の単語があるのですが、そういったところはデータを見つつ、定例ミーティングの場で少しずつインプットしていきました。
吉村
ドメイン知識を得るために取り組んだことや、工夫していたことはありますか?
鈴木
例えば、東京おもちゃショーのようなイベントには、できるだけ足を運ぶようにしていました。
データを見るだけでなく、どんな人がその商品を手に取っているのか、どの商品がブースの入口に配置されているのかといった点を、自分の目で確かめることを意識していました。
また、ターゲットになる子ども向けコンテンツのトレンドについても、積極的にキャッチアップするようにしていました。
データ活用を成功に導く時のお互いの存在
吉村
ここまで長い間のインタビューありがとうございました。最後にデータ活用を成功に導く時のお互いの存在について聞かせてください。
戸松
一つのチームとしてしっかりコミュニケーションをとり、私はビジネス要件をまとめ、鈴木さんには技術的な専門性の高いところをまとめておいてもらう、というようにお互いの役割を相互補完し、お客様のためになることを実現できればいいのかなと思っています。
吉村
戸松さんにとって、鈴木さんはどういう存在ですか?
戸松
私たちが困ったことに対して、専門家という役割で解決策を提案して課題解決をしてくれるパートナーですね。別会社で働いている人、というよりは同じチームのパートナーです。同じチーム、同じプロジェクトを動かしている仲間の一員です。
吉村
鈴木さんにとって、戸松さんはどういう存在ですか?
鈴木
要件整理や、どのような領域のことに注力すべきか、について整理する力が強い、発信力を携えたキーパーソンですね。
吉村
最後に今後の展望について聞かせてください。
戸松
バンダイナムコグループのパーパス「Fun for All into the Future」は、私たちが提供する商品・サービスが感動を超えて行動を呼び起こし、世界中のファンとつながり、ともに、心豊かな社会と未来を創っていく社会的使命を表しています。
インタビューでは、データ活用について話してきましたが、データ活用はバンダイナムコグループのサービスや商品を使っているファンの皆さまが、実際に使ったり遊んだりした時に、楽しいというポジティブな感情を抱いてもらうための手段の一つでしかないと思っています。世界中のファンの笑顔のために、私たちは、「データ」という切り口から事業にどのように貢献できるかを常に考え、パーパスのもと、世界中のファンの笑顔と夢の実現に向けて邁進していきたいと思います。